『二重人格探偵エリザ 嗤う双面神』( isbn:9784596550255 )

『二重人格探偵エリザ 嗤う双面神』は、ヴィクトリア朝ロンドンが舞台の小説です。例えば、こんなふうに紹介することもできるでしょう。「ようやくスコットランドヤードに科学捜査が入り始めたこの時期、女性警察医エリザ・ジキルは周囲の偏見に苦しみながら科学の力で連続殺人鬼に挑む!」とかなんとか。
それもまたこの小説の一面ではありますけど、いや、まったくもう、素晴らしくいかがわしい小説でした! 昼は王立協会の捜査官が錬金術師を連行するべくあちこちに顔を出し、夜は連続殺人鬼が暗がりで人を襲うんですよ。科学と錬金術と殺人! 


エリザはあのジキル/ハイドの遺した娘で、やはり二重人格。影の人格であるリジーをうまく制御しきれず、秘密の練金薬を飲みながら警察医として働いています。これは逆に言うと、夜の冒険にいそしむリジーから見れば表の人格であるエリザが真面目すぎるということでもあります。エリザとリジーを悩ませるのは、連続殺人鬼の謎、エリザ/リジーの後見人を務める A. R. の謎、魅力的な王立協会捜査官ラファイエット大尉の謎。これらを追いかける冒険のうちに2人の間の垣根が徐々に低くなって行くのですが、それは決して良いことではなかったはずで……というお話。

夜の酒場がいかがわしくて、昼は昼で錬金術関係者であることを隠すというディストピアもの的なスリルがあって、エリザ/リジーは大変ですけど読んでるこちらはビバ大都市ロンドンって感じです。至れり尽くせり。

謎のほとんどを解き明かしつつも、エリザの行く末とロンドンの治安が気になる終わり方で、続きが気になります。英語では既に出ているようなので、どうか邦訳も出してほしいものです。