将棋の終盤例(その4)

前々回前回は、C図から後手が△7六銀上とすれば先手玉が詰む、という話をしていました。

今回は、このC図から△6九角と打った場合の話と、△7六銀引成とした場合の話です(△7六銀上で詰むことを我々は既に知っているのですから、△6九角や△7六銀引成の話は、A図で先手玉が詰むかどうかという意味では必要の無いことではあります。しかし、第1回冒頭で書いたようにこの「将棋の終盤例」は終盤の読み筋を紹介することそのものを目的としており、そういう意味で△6九角や△7六銀引成の話も必要なので、今回はその話をするのです)。

△6九角で詰む話

C図から△6九角と打った局面を、H図としましょう:

これに対して、先手は▲9七玉か▲8六玉です*1。▲9七玉の方が簡単ですから、まずはそちらを見ましょう。I図とします:

この手には、後手は△9六角成とします。先手は▲同玉と取るしかありませんが、そこで△8五金。持ち駒が空になりますが、後手は9一の香車を活用できるようになりました。

ここからは、前回までに何度か見た雰囲気の手順で、

  • ▲9七玉なら、△9五香▲8七玉△7六銀引成▲同銀△同銀、までの詰み、
  • ▲8七玉でも、△7六銀引成▲同銀△同銀▲9七玉△9五香、までの詰み。

というわけで、△6九角に対して先手がI図の▲9七玉を選べば詰むことがわかりました。もう1つの選択肢、▲8六玉を調べましょう(J図):

この▲8六玉は、△9六角成に対して▲同香を用意しています(J図から△9六角成▲同香の後にどうなるのか、後で軽く紹介します)。後手はその形を避けるために△8八龍と捨てるのが良い手です。

合駒は△同龍で詰み。従って、先手は▲同銀と取らされます。これで7六に利いていた銀がいなくなったので、後手は△7六銀引成として先手に▲9七玉を強要し、その後に△9六角成と取ります。

先手は9七に押し込まれた玉が邪魔になって、これを香車で取れません。▲同玉なら△8六金の1手詰め。取らない▲9八玉でも、8七に金を打ち込んで詰みます。

つまり、J図も詰み。I図とJ図の両方とも詰みですから、H図の時点で先手玉は詰んでいるのです。前回の詰み筋(C図から△7六銀上)を全く読まなくても、この△6九角さえ読めれば良い、ということです。

J図から△9六角成▲同香の変化(△6九角で詰まないと勘違いした話)

先ほども触れましたが、△9六角成▲同香の形は詰みません(K図)。

△8八龍と捨てれば、▲同銀△7六銀引成▲9七玉で、追いつめているように見えるかもしれませんが、これは雰囲気がそう見えるだけで、実際には詰まないのです。例えば△8五桂▲9八玉△9七歩▲同桂△同桂成▲同銀△8七金▲9八玉、と進めた失敗図がこちらです。

こんなふうに手が続く変化はあるのですが、K図からは、後手がどう頑張っても詰まないのです。K図は後手が避けるべき局面です。

私はつい先日まで、H図の△6九角では詰まないと勘違いしていました。上で説明した△8八龍が見えていなかったせいです。▲8六玉に対して△9六角成しか無いという思い込みがありました。

△7六銀引成で詰まない話

今度は、C図から△7六銀引成と指した局面を調べます。L図としましょう。

L図において、先手の選択肢は2通りです:

  • ▲同銀
  • ▲9七玉

このうち、▲同銀に対しては、後手は△同銀とします。以下、第2回の△7六銀上▲同銀△同銀成以下の変化にほぼ合流します*2
▲9七玉の場合に、後手に△7九角と打つ以外の方法が無いのは、第2回の△7六銀上のときと同じです。先手が合駒して8八で清算するところまで同じで、後手の持ち駒は銀と歩が1枚ずつと、8八で取った合駒です。これをM図とします:

参考のため、△7六銀上のときのD図を再掲します。M図と見比べてください。

D図からは△8七銀と打って▲7八玉なら△7八銀成で詰み、▲9七玉なら△9六銀成▲同玉△8五銀……いう手順でしたが、M図からの△8七銀では詰まないのがわかるでしょうか。▲7九玉と引かれたときに7八に利いている駒が無くて後手が困るのです。

L図からM図に至るまでの間に、ほかの手段が無いことは簡単にわかります。結局、7八に利いている駒の有る無しの違いが決定的で、D図は詰みがあるのにM図には詰みが無いのです。そして、それこそが、C図からの△7六銀上と△7六銀引成の違いなのです。

次回予告

ここまでずっと、A図の話をしていました。

次回はこのA図からの手順をまとめて、その後は、実際の名人戦第4局で先手の羽生三冠*3がA図をどのように避けたのか、ということを書くつもりです。

*1:合駒の可能性もあるにはありますが、△同龍で後手の龍が近づいてしまって、すぐに詰みます。打たない方が良いくらいです。

*2:細かい部分は違います。例えば、△7六銀引成▲同銀△同銀の瞬間に▲8六玉の変化があります(△7五角▲7六玉△6七龍で詰み)。

*3:当時。現在は、名人復位を果たして四冠です。