将棋の終盤例(その1)
先月の名人戦第4局の話を書こうと思いました。あの将棋の終盤の話は、「将棋の終盤にはこういうことを考えているのですよ」と紹介する例にはちょうど良さそうなので、そんなことを書きたいのです。
ですが、もしもいっぺんに書いたら、ちょっとした分量になるか、あちこち端折って読者をひどく限定するかのどちらかになってしまいそうです。分割するのが良いでしょう。
題材は、実際の第4局では現れなかった局面です*1。A図としましょう。
……もしもこの局面になっていたら、後手の森内名人は先手玉を詰ませて勝つことができたのですが、実際には、先手の羽生三冠がこの局面にならないような手を選んで勝ちました。
その手順の話を、なるべく多くの人に読んでもらえるように何回かに分けてみようというわけです。今回から3回くらいは、A図がどのように詰むのかを書きます。
さて、A図の形で有効な王手と言えば、まず△9六歩です*2。それに対して、先手は▲同玉か▲同金です。
今回は、▲同玉の場合を考えましょう(B図)。
B図に対する後手の応手としてまず読むのは、△8五金です。こう指されれば、先手は▲9七玉と引くしかありません。△9五香▲9六歩で、こうなります:
この後に9六で駒を取り合えば、後手の持ち駒は角金歩歩。もう一度後手が△8五金と押さえて、
あとは、先手玉が9七に引いても8七に引いても、ほとんど同じことです。後手は、先手玉が8七にいる瞬間に7六の地点にどちらかの銀を動かせば良いのです。9七に引いた場合の詰み上がり図がこちらです:
以上、A図から△9六歩▲同玉のB図ならば先手玉が詰むことがわかりました。今回はここまでです。
B図の形は、将棋の終盤にある程度慣れていれば「よくあるあれで詰みそう」と思う定型であり、その定型の通りに詰んだに過ぎません*3。やや先走ったことを書きますが、こういう変化を「よくあるあれ」として処理することが、長手数の手順を効率的に読むことにつながります。