ループなループパズル

ニコリ133号のパズルなんでも座に掲載された「ループスリザーリンク」と「ループヤジリン」について、その解答に触れながら少し書く予定です。
以下、「ループスリザーリンク」と「ループヤジリン」がどのような問題だったのか、書きます。当初は実際の解答にも触れるつもりでしたが、予定を変更して、一般論を書くにとどめました。


133号の「パズルなんでも座」コーナーは、普段ニコリに載っているパズルの正方形の盤面の上端と下端、右端と左端をそれぞれつなげてみよう、という「ループパズル特集」でした。

ループパズルとは、いちばん下のマスといちばん上のマス、いちばん右のマスといちばん左のマスがつながっているとして解くものです。つまり、ループパズルに端はありません。上端と下端、右端と左端をくっつけると、ドーナツのような形になりますが、それをイメージして解いてみましょう

そして、この特集の中に2問、全体で1つの輪っか*1をつくるパズルがありました。「ループスリザーリンク」と「ループヤジリン」です。私はこの2問を、(少し専門的な)興味を持って解きました。

数学的な話

この「ループパズル特集」で扱われた盤面*2を、数学(特に位相幾何学)では「トーラス」と呼びます。一方で、普段のニコリのパズルで扱っているような正方形は、「ディスク」の一種です*3。トーラスとディスクには、はっきりとした違いがいくつかあります。
その中でも、「ディスクに描かれた輪っかはすべて連続的な変形によって1点に縮めることができるが、トーラスの場合はそうでないものもありうる」という点*4は、とても大きな違いです。1点に縮められない3つの例を、画像でお見せしましょう*5

もちろん、実際のパズルを解いてこんな単純な曲線にはならないはずです。例えば上の画像の一番左の例だったら、こんなかんじでしょうか?

これらの例からわかるように、トーラス上には本質的に異なるたくさんの輪っかがあり得ます*6。この「ループスリザーリンク」と「ループヤジリン」を前にして、いったいどのタイプの輪っかが出てくるか、ワクワクしながら解いていたのです。

パズル的な話

ここまでの話は、私が2問のパズルを解くにあたって純然たる学問的な興味を抱いたという話であって、パズルを解くには関係ないようにも見えます。しかし、実際にはそうではありません。ここまでで紹介した「普段とは本質的に異なる輪っかが答えとしてあり得る」という事実は、今回の「ループスリザーリンク」と「ループヤジリン」に、ある解き方が通用しないことを示しているのです。
それは、「内と外の塗り分け」です。トーラスではどちらが内側だか判然としないわけですが、問題の本質はそこにはありません(内か外かはわからなくとも、2色に塗り分けることは可能ですから)。実は、上で挙げた3つの例はどれも、そもそも盤面を分割しないのです。例えば一番左の例では、盤面が上下に二分されているように見えますが、盤面上端は下端とつながっていますから、分割されていません(ので、塗り分け不可能です)。このような例が存在する以上、「ループスリザーリンク」と「ループヤジリン」では、「盤面を塗り分けて解く」という解き方は(もしかしたら、偶然にうまくいってしまうかもしれませんが)通用しないのです。

次回(あるんですか?)予告

当初は、ここで「実際の問題はどうだったのか?」ということに触れて、この文章を終えるつもりでした。予定を変更してしまったので、次回予告風にしてみましょう。
「ループパズルの罠によって使用できる武器が1つ減ったソルバーたちは、それでも戦いを挑んだ。入口の見えない恐怖、つい入れたくなってしまう黒マス、利かない見通し……。破綻を回避し続けた先にあるものとは? 次回、『脇役であるとも知らずに』」
to be concluded...

*1:「ループ」と呼びたいところですしタイトルではそうしたのですが、「ループパズル」との重複で見通しがひどく悪くなることとニコリのルールで「輪っか」と表記されていることから、こう書くことにしました

*2:正方形の上端と下端、右端と左端をそれぞれ順方向につなげてできる曲面

*3:ディスクとは別物として扱うこともありますが、目下の論点ではありません

*4:位相幾何学の言葉では「ディスクは単連結だが、トーラスはそうではない」

*5:Windowsのペイントででっち上げました。貧弱な画像でごめんなさい

*6:位相幾何学の言葉では「トーラスの基本群は有限群でない」とでも言うところです。基本群はZ(+)Zに同型です