七回死んだ男(ISBN:9784062638609)

主人公・渕上久太郎は、だいたい3日〜4日/月、その日を9回繰り返す「反復落とし穴」に陥る体質の高校生。その日に限ってはいろいろやり直し可能です。朝起きて周囲の会話やら何やらに覚えがあったら記憶をたどってその日がどのようになれば良いだろうかと考え、試行錯誤を繰り返して「決定版」を探し、8周目がリハーサル、9周目が本番。「反復落とし穴」の日を選べないとか大きな改変は大変だとか制限はありますが、なにしろ9回も反復されるので、だいたいそれなりの「決定版」が見つかる訳です。
それまでこの体質でまあまあうまくやってきた久太郎君が、お正月祝いの真っ最中に祖父の死に出会って……というお話です。題名の通り、主人公は「反復落とし穴」のせいで祖父の死を7回も体験するのですが、周囲は毎回、いかにも「推理小説で殺人事件に出会った登場人物」という感じの反応を見せるのに、彼は「反復落とし穴」のことを考える、この落差が面白く描かれています。初回からして、「1周目には何事も無かったのに! 酒盛り*1を僕が回避したばっかりに……」みたいな感じです。終盤になると、「色々原因っぽいことを遠ざけてみたのに、何で死んじゃうんだろう。あと×周しか残ってないのに! でもあの酒盛りは回避したい」みたいな。
もちろん、中心に据えられているのは主人公の「1周目で死ななかった祖父が2周目以降なぜ死に続ける*2のか」という疑問で、この疑問に対する解答もきれいなのですが、人間関係がどんどん暴かれて行くとか、失敗が重なるごとに主人公の介入が大規模になって行くとか、そういったところだけでも十分に楽しめるお話です。
最後の数ページは、書かれたからには理由があるのでしょうが*3、読後感を悪くしていると感じました。少し残念です。

*1:家族から飲酒を止められている祖父が飲みたがって、秘密の酒盛りにつき合わされたのです。

*2:変な表現です。

*3:というか、思い当たることもありますが。